発達心理学ゼミ 子どもの「10歳の壁」とは何か?

乗りこえるための発達心理学

渡辺弥生 光文社新書

<このゼミの目的> 形式的操作をなかなか身につけられない子どもがいる。 発達段階を引き上げる「乗り越える」指導方法を考えるためのヒントとする。
<対象> 教育関係者 保護者 教育関係学生
<ゼミ成果> 各発達段階について理解を深めることはできた。  社会的スキルが子どもの感情理解や道徳の発達を引き上げることもわかった。  しかし、その他の知的技能(帰納演繹推量、記号化、メタ認知の視覚など)については、乗り越える手段については書かれていなかった。  これは論文検索サイトでも同様で、知的技能の発達を促す方法の研究はあまり進んでいないのかも知れない。  表題は「乗り越えるための発達心理学」とあるが、乗り越える具体的な方法についてはエリクソンやヴィゴツキーのいう社会性の発達についてのみ書かれてい る点に不満が残った。  また、今回とは別に設けた認知発達ゼミによるとピアジェ以後の研究者も、認知発達が身体的なハードウェアの発達でなく、社会性を否めないとあるが、どのように引き上げるかに関する話になると「なるべく具体的な体験をさせてあげましょう」程度で、系統的な指導には結びつかない。
<課題>  文部科学省の学習指導要領はその内容の学年配当から、ピアジェ学派の発達段階とその期待される年齢にあわせて指導内容を設定していると考えられる。  我々の課題は、子どもの発達への社会的な期待に添えなかった子どもが、それを乗り越える手助けを与えられず「落ちこぼされていく」現状の改善である。
これに対して、NPO法人アイ教育研究所では次の指導提案を行う。

10 歳の壁を乗り越え、発達段階を引き上げる指導具体的操作期から形式的操作を獲得するために、 1)具体と抽象を行き来する「実感体験」を重視する。 2)疑問や葛藤を誘発させるような発問や仮説設定をする。 3)学習者のメタ認知能力を向上させるためのMAP学習。 4)自発的な学習を可能にする自己調整学習

これらにより、「学ぶ人の器」というべきを育み、無理なく成績をあげ、自己実現できるような指導を行う。また、発達が遅い子どもを引き上げ、発達の早い子 どもはさらに能力を開花させる。

「学ぶ 人の器を育てる」教育実践 東京都杉並区阿 佐ヶ谷での教育実 「10歳の壁」を乗り越える小学生指導

<内容まとめ> ※以下は、本書の引用やまとめ、また関連する事項も付記した。 ?疑問やそれに関する引用 !意見や考察など

<序章> 10歳前後は注目すべき年齢ではあるが、「10歳までにやらないと手遅れ」というのは根拠がない。飛躍の時として楽しんで見守る。 脳科学と思考の結びつきはそれほど明らかにはされていない。 客観的な診断でも「だからといって、どうすれば・・・」のないものは途方にくれるだけ。「つまづき」はあるが超えられない「壁」ではない。 学術的に得られた知識が、消費者に必ずしもわかりやすく伝えられていない。

<1章> 小4国語の長文や算数でつまづきやすいのは事実。 スキャモンの発達曲線 http://www.bea.hi-ho.ne.jp/y-kondou/page_1.htm 神経系は10歳までは成長するがその後は変わらない。 だからといってその後の質的変化がないとするのは安易。 証拠(エビデンス)の一部を切り取って安易に子どもの年齢と結び付けるな。 根拠なく「10歳までに」とあおるな。 早期教育への宣伝効果を狙っているだけ。
シナプスが多く神経回路が密なことと、脳の機能が発達することの関係は証明されていない。(2004榊原 子どもの脳の発達)
認知症高齢者の学習療法(音読と計算)=>ニューロンの活動が活発になり、前頭葉の血流が増えると、ニューロンの機能が向上するという考え方は論理の飛躍である。(2009榊原 「脳科学」の壁) しかも、小学校中学年までの子どもは音読しても血流が増えない。
まず発達の頑健性(ロバストネス)を示す。 そこから逸脱するとどのような問題が起きるのか。
この20年間、授業時間が削減されたが、勉強についていけなくなる子どもが小学4年生前後に急増している。
実は1987にも少年期の壁は指摘されていた。 ギャングエイジがはじまる9歳ごろ 排他的ではあるが結束がつよく、思いやり、責任、協力などの社会性を学ぶ。 経験主義から科学の論理を身に付けようとする。 比較して共通性、相違性を発見して、高次の分類作業ができるように。 過去・現在・未来へ認識を広げる。=>歴史的な捉え方 芸術・文化・スポーツへの興味 語彙・文法・会話能力 ☆学習の土台は社会性の発達にこそある。 ?心理、教育、社会性の発達 http://www.sciencehouse.jp/materials/blog2.pdf
人間関係のルール「○○しなければならない」 VS 好み感情 感情をマネジメントする能力は育っていない。 「友達と仲良くしなくてはならない」VS「なんであいつに優しい言葉をかけなきゃいけないの?」 信じていたルールが崩れる=>つまづき自己嫌悪
ITPA言語学習能力診断検査 9歳の壁ということば萩原浅五1964ろう教育「80bBの聴損は9歳レベル頭打ちだが、この壁は聴覚補償の教育で打破できる。」 ピアジェのいう具体的操作期から形式的操作期へ移行するための「経験のなさ」による。村井潤一郎1979「ろう教育科学」 ☆形式的操作期に入れないのは経験のなさによる。 論理的(抽象的)な思考ができるようになるために幼児期に自由な遊びを経験しておくべき。
脇中紀余子2009 年齢と学習や指導の変化 小3ごろまで 小4以上 生活中心 基本的な教科学習 具体的思考 抽象的思考 言語指導 教科指導 直接経験 間接経験 言語を覚える学習 言語でものを考える学習
Baker,1993 言語の変化 BICS CALP 話し言葉 書き言葉 一次的言葉(誕生から幼児期の生活言語) 二次的言葉(学校生活とともに獲得する学習言語)岡本夏木(1985)『ことばと発達』岩波書店 http: //www.gsjal.jp/kawakami/youngreview01.html 語用時点? 語彙辞典 岡本1985 限定コード 精緻コード? 生活言語 学習言語 高コンテクスト(身振り手振りなどの手がかりの支えがある) 低コンテクスト 訓読みが多い 音読みが多い
「一次的ことば」を育てる http://geocities.yahoo.co.jp/gl/rintaro1214/comment/20060822/1156194723
伝達言語能力 学力言語能力 岡1996 基本的対人伝達能力 認知学習言語能力 山本1996
CALPの獲得には、自然で豊かな会話や経験の蓄積、質の高い遊びが必要。
「猫と犬は動物」のために、「猫はかわいい。を先に。 猫 かわいい 犬 動物
高度化(経験を重ねて情報を取り入れる) BICS と 高次化(抽象論理) CALP 非現実的な話が理解できる 因果関係を厳密に考えられる 論理的な思考ができる 記号が自由に操作できる
生活中心の遊びが重要 遊びの複雑化、社会化Parten1932 一人遊び ? 傍観的行動 ? 平行遊び 近くで砂遊びをするだけ。同じ部屋で本を読む。 連合遊び おもちゃの貸し借り、話しかけ 共同遊び 目標を共有、リーダー、分担
たくさんの人との交流から得る知識行動体験が、抽象的な概念の理解へつながるのか?

大学生院生、大学研究者 共同研究者募集 子どもの発達を守るプロジェクトに参画しませんか。 「発達段階検診の開発」を中心に活動しています。ご連絡ください。 infoai-kyo.jp
保護者さま お子様は楽しくのびのびと心と頭を成長させていますか。 特集:10歳の壁を乗り越える小学生指導法

<第2章> 大人のいうことをひたむきに信じ前向きにトライ 9歳ごろから 頑張りやさんが、不安、自分も他人も信じきれなくなる いらだち、不安、辛さ Q お父さんやお母さんのいうことはいつも正しいと思う。 友情、自分とは何か 科学的知識を受け入れきれずに葛藤状態に ギャンググループ 同じ遊びが好き チャムグループ 趣味などをきっかけに互いの類似性を言葉で確かめ合う仲良しグループ ピアグループ 価値観や生き方など内面を語る。共通点だけでなく違いも受け入れる。 Q 友達が好きな服装や髪型をすることがある。
いたずらにビジネスに利用される臨界期でなく、興味深い魅力的な年齢。
具体的操作期 いま、ここ
形式的操作期 友情 自分とは何か 記号を使った数式 素朴概念の形成と科学概念との葛藤
自尊心が低くなる 友達のと関係に傷つく 葛藤体験を重ねる 自信を失い 自己嫌悪になる 溜まった憤懣をスケープゴートにぶつけさせるのは避ける。 葛藤経験を肥やしに問題を解決していく力を育むように支援する。 自尊心を維持し他社に敬意を払う態度を形成し、他者から受容される支援 ☆ソーシャルスキル教育の導入
男性ホルモンアンドロゲン 怒り 攻撃 女性ホルモン 抑うつ
<3章> 自己意識(自分の行動を客観的に省みる。内省)は、他人がどんなことを考えているかを考えるレディネス。 鏡に映った自分の姿を自分のものだと認識する。
モントメイヤー1977 外面的な自己意識  身体的特徴(大きい 背が高い 重い)  持ち物(かばんを持っている 内面的な自己意識  対人関係様式(友達が多い  独自の存在(自分は明るい  思想や理念(頑固だ
過去のことに「○○だった。そして、悲しい気持ちになった。」と気持ちや感情を加えて記述できる。 「弟が生まれたから、もう前のように甘えてはいけない。」時間的な流れも汲める。 「今は逆上がりができない。でも、がんばる。」未来について。
自尊感情  自己に対する肯定的または否定的(劣等感、不満)態度  very good 非常に良い  good enough これでよい 「不得意なところもあるし、結構いけるところもあるなあ。まあ、こんなくらいでいいんだ。 「まあ、いいや 「こんなもんでしょう おおらかに認める
認知的コンピテンス(潜在能力)  学業的能力、記憶力が良い、すらすら読める 社会的コンピテンス  友達が多い、人気がある 身体的コンピテンス  スポーツ  全体的自己価値  自分に対する総合的満足 「自分は、勉強はだめだけど、運動は得意だ」 「運動は得意なんだいいなあ。」不得意に目が行き過ぎて評価全体を下げさせない。 不得意だと思っていることに「すごいねー!」=>いいかげんな人だと不信を 「お?できたじゃん」くらいがちょうどよい?
自尊心は9歳ごろから低下する 自己に厳しくなる 女性のほうが男性より低い 60代で回復するが80代で下がる
価値ある存在として自己を受け入れられるようにサポートする。
思春期 評価そのものより誰から言われるかが気になる。 親より好きな友達 仲間からの肯定的評価でぐぐっと自尊心が高まる。
行動から心の状態を推測できる。 「友達は、さびしいときはいつも体育館の裏で、壁にボールを当てて一人でキャッチボールをしている」 人は悲しくなると一人になる傾向がある
誰かを欺く 複雑な推論 ○○すれば、Aくんは△△と思い込み、××の行動をするだろう
マクシ課題、サリーとアン課題 4~7歳で正答率が上る。 ジョンとメアリー課題 9 10歳 「Aは、BがXXと考えている、と思っている。」二次的信念課題 推理小説を楽しむ トリックが理解できる。
4章 「考える力」の急成長
具体から抽象
具体的操作期 見る、聞く、具体物でシンプルに考える 足したり、引いたり、具体的な操作 発見や体験の機会を増してあげる 事物を通して生々しい体験を重ねる
保存 変形操作後の液量の保存、数の保存
系列化 背の高さの順に並びなさい 7歳には難しい グラフで出題
記号での比較 A>B、B>CよってA>C 心的活動ができる 言葉や記号で出題
現実と食い違う仮説 こういうこと? 平行に見えない図を「平行とする」という言葉でイメージ修正できる 実際に平行線で角度だし、平行という仮説で角度だし 教師の図の理解に影響するだろう
論理的思考実験 ピアジェの振り子課題 振り子の周期は、重さ、長さ、振れ幅 具体的操作期は仮説まではできるが、変数制御がわからない。
人の心について 他人の行動を見て何を思ったかを考える。 自分の考えと一致しないことに悩む。 人と関わるのは難しいなあ・・・ 社会の成り立ち 世界で生じるさまざまな問題 戦争 一人の人間として何かできることがあるんじゃないか 責任 親教師など権威を持つ者への反逆的な気持ち 理想を掲げる 「危ないところには近づいちゃダメよ」 「自分たちのことしか考えてない!」 自分の考えることはどうせ大人は受け入れてくれないだろう。 頭でっかち 相談する行為を抑えてしまう。
自己中心性 だれかに笑われている 自分の考えや体験が独創的である 多くの人と関わる経験を重ねて他者からの視点を正しく推論する力がつくと自己中心性は弱くなる。
創造性 「もしも3つめの目があったら」 具体的操作期  もっとよく見えるようになる。  そんなことを考えてもしかたない。 形式的操作期  こうだったらこんなふうになるのにな。  仮説や推論を立てて自分なりにイメージを表す。
時間の認識 6、7歳  1週間、来週、来年、今日は明日になれば昨日になる。 遠い未来や過去を現在と結びつける ☆学習計画が立てられないのは時間認識の未熟によるものかも。
メタ認知の発達 自分で自分をコーチする。 質問がない→何がわからないのかわからない なんとなくわかったような気がする。 人間について  自分「私はあわてものだ」  個人間「AさんはBさんより足が速い」  一般「練習するとうまくなる」 課題について  計算は桁が増えるとミスが増える  Q あなたはどんなことが得意(あるいは苦手)ですか。 わからない。 方略について  宣言的知識、手続き的知識 ?条件的知識 いつ、なぜそれをするか ?宣言的知識(ルール)を手続き的知識(操作)に変えられるか
内言の確立 自分自身との対話 他者と外言で話していたことを自己内に変化 ☆他者との相互作用が重要

具体的操作期 http://www.1-ski.net/archives/000180.html 具体的操作期とは、発達段階(児童期)においての用語で、ピアジェ,Jの 発達区分によるもの。6歳前後から11歳前後にかけての知的発達を特徴 づけるもののこと。前操作期までに生じた思考活動に、可逆性(否定と逆)や 相補性が加わり、実際の事物を対象にした分類・順序づけ・対応づけに 必要な一群の操作(群生体とよぶ)が発達する。7~8歳頃には長さ・ 物質量・数などの保存の概念が生じ、9~10歳を過ぎると面積や重さなどの 保存の概念を持つようになり、やがて形式操作の基礎を形成するものとなる のである。
形式的操作期 http://www.1-ski.net/archives/000184.html 形式的操作期とは、発達段階(青年期)においての用語で、ピアジェ,Jに より提唱された、11~12歳から14~15歳にかけての知的発達の段階の こと。前段階である具体的操作期に、実際の事物についての論理操作に おいて可逆性と相補性による操作群が形成されていたのに加え、抽象的な 記号を使って、仮説演繹的に、命題間にINRC群の操作(同一性変換・ 逆変換・相補変換・相関変換)を加えることができるようになる。このように、 現実をひとつの可能態・命題の組み合わせとして反省的に捉えることが 可能となる時期である。
可逆性 相補性 仮説演繹 INRC群 同一性変換・ 逆変換・相補変換・相関変換

幼児は行動しながら思考する。 実際の場面で具体的なものに触れながら考える。 「きのう妹のおかしをとったでしょ!」と叱ってもなんのことかわからない。 抽象的知識の注入や嫌悪感の押しつけ、文字、数字をつめこむことで子どもの外になり、幼児の心を大きくゆがめている。 三上廣子1988心理学 基礎・発達を中心に
概念 種々の物事に対して特殊性を捨て、共通性を抽象して、差異性を発見する働き。
形式的操作の教授–学習の心理的研究 (小学校児童に対する教授・学習と発達–特別研究「学業不振児の発達促進のための基礎研究」–報告-1-) 中垣 啓 http://ci.nii.ac.jp/author?q=%E4%B8%AD%E5%9E%A3+%E5%95%93
ピアジェに学ぶ認知発達の科学 J.ピアジェ 中垣啓訳